-疎経活血湯(そけいかっけつとう)-


疎経活血湯(そけいかっけつとう)の効能

体力中等度で、関節痛、神経痛、筋肉痛、腰痛などによく用い、特に腰から下の痛みで夜間に激しくなるものに効きます。青膨れした女性でお血のあるもの、普段からよくお酒を飲む人の激しい痛みにも効果があります。むくみ、腰から足にかけての関節・筋肉・神経の痛み、冷えると痛みが増す人に用いられます。


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疎経活血湯(そけいかっけつとう)の解説

腰痛に効果がある疎経活血湯(そけいかっけつとう)

西洋医学的にいえば、腰痛は脊椎や軟骨の変形が原因で神経が圧迫され、それが脳で「痛み」として感じられるわけですから、神経の圧迫状態が解消しないかぎり痛みはなくならないことになります。したがって、圧縮された椎間板を広げるために牽引するような整形外科的治療が理にかなった方法になるのです。しかし最近、整形外科の専門医が、漢方に頼る傾向が増えてきました。

また。がんの末期患者がモルヒネも使わずに、漢方薬だけで痛みを感じないまま亡くなる例がたくさんあります。もちろんがんが治るわけではありませんが、手の施しようもない末期患者が楽に生命を全うできるのは、ターミナルケア(終末期医療)の理想といえるのかもしれません。

痛みを解消する疎経活血湯(そけいかっけつとう)

漢方では、痛みは「気」(き)と「血」(けつ)の滞りとされています。例えば気がおなかの辺りで滞っていると、腹が張って腹痛を感じます。打撲で腫れると、その箇所で内出血が起こり痛みを感じます。その腫れたところで血が滞る(お血)からです。

したがって、気のめぐり、血のめぐりを改善することができれば、たとえ骨の異常など器質的な問題は解消されなくても痛みはなくなってしまうだろう、漢方ではそのように考えるのです。

そして、さまざまな症例によってその正しさが証明されています。体の部位などによって気も血も滞り方は様々ですから、痛みの漢方的な対処もそれぞれ異なります。日本人の多くが悩む腰痛の場合は、「疎経活血湯」(そけいかっけつとう)という処方が最適です。

ところで、漢方薬は大きく分けて「古方」(こほう)と「後世方」(ごせいほう)があります。「古方」は2~3世紀までに確立した漢方処方で、一般に配合する生薬が少なく(4~5種類)、症状や体質などが当てはまる条件は限られるが、条件があえば大変よく効く漢方薬です。

「後世方」は古方以後に確立したもので生薬数が多く、あまり使用条件は限られません。疎経活血湯は後世方で、17種類もの生薬を配合します。後世方は効き方が弱い、といわれることもありますが、この疎経活血湯に関しては古方のような強い効果が期待できます。

後世方は配合する生薬が多い分、それぞれの生薬の分量は少なくなります。つまり一つ一つの生薬の品質がかなり重視されるのが後世方の特徴です。一つでも品質的に問題のある生薬が混ざっていると、全体のコンビネーションが全く取れなくなり、効果が現れません。後世方の難しさはそこにあるといっても過言ではないでしょう。

疎経活血湯(そけいかっけつとう)の17種類の生薬

疎経活血湯に配合されている生薬は次の通りです。

芍薬(しゃくやく)(2.5g)、地黄(じおう)川きゅう(せんきゅう)蒼朮(そうじゅつ)当帰(とうき)桃仁(とうにん)茯苓(ぶくりょう)(以上各2g)、牛膝(ごしつ)陳皮(ちんぴ)防已(ぼうい)防風(ぼうふう)竜胆(りゅうたん)威霊仙(いれいせん)羌活(きょうかつ)(以上各1.5g)、甘草(かんぞう)白し(びゃくし)(以上各1g)、生姜(しょうきょう)(1.5g)です。

疎経活血湯はたくさんの生薬を使っていますが、この処方は四物湯(しもつとう)という処方がベースになっています。

芍薬、地黄、川きゅう、当帰の4生薬からなる四物湯は、婦人疾患、血虚などに広く使われて、血行をよくする作用があり、痛み止めの薬といわれています。桃仁も血のめぐりをよくする活血生薬です。

一方、蒼朮、茯苓、牛膝、防風、白し、威霊仙、羌活の7生薬は怯風湿薬(きょふうしつやく)といって、気の流れに関係する肝の生理機能で、精神や五臓六腑(ごぞうろっぷ)の活動をのびやかに円滑に保ち、気の流れをスムーズにする働きを活性化する働きがあります。特に威霊仙には軟骨の変形による痛みを和らげ、変形そのものも修復する働きもある貴重な生薬です。

また、牛膝も老化の原因となる肝や腎の衰えを防ぐ働きがある生薬で、特に下半身の痛みに効果があります。

つまり疎経活血湯の処方目的は、気と血の滞りを解き、八味地黄丸(はちみじおうがん)のように腎虚(じんきょ)すなわち老化を阻止するとともに、主に足腰の筋肉の痛みやしびれを軽快するものといえるでしょう。症状によっては疎経活血湯と八味地黄丸を併用することもあります。したがって、腰痛をお持ちの方でも、特に体が疲れやすい中高年で、血行不順気味、加えて飲酒が過ぎるタイプに最適の漢方薬です。

疎経活血湯(そけいかっけつとう)に使われている防已について

防已は日本と中国で呼び名が異なり、日本の防已は中国では青風藤(せいふうとう)と呼ばれ、中国で疎経活血湯に使う漢防已(植物名はシマハスノカズラ)とは全くの別物のです。日本薬局方の防已(青風藤)は植物名がオオツヅラフジですから、植物の種類も薬効も異なります。

さらに問題なのが中国の防已に漢防已と広防已(植物名はアオツヅラフジ)があることです。これがいろいろな混乱を起こす原因となっていますが、正統な漢防已は収穫量が少なくて高価、反面広防已は流通量が多いので、こちらが使われることが多いのです。

一時、防已はやせ薬といわれましたが、それは流通量の多い広防已でした。それが見さかいなく飲用されたことがありますが、これにはアストロキア酸という腎不全を起こす毒が含まれていることが分かりました。したがって、防已を含む処方については十分注意して服用してください。

日本の防已(中国名:青風藤)=オオツヅラフジ

中国の漢防已=シマハスノカズラ

中国の広防已=アオツヅラフジ

適応される主な症状

配合生薬

配合生薬の効能

芍薬(しゃくやく)

芍薬は漢方処方で最もよく配合される生薬の一つで、主として筋肉の硬直、腹痛、腹部膨満感、頭痛、血滞などに広く処方されています。

主成分のモノテルペン配糖体ペオニフロリンには鎮痛、鎮静作用の他、末梢血管拡張、血流増加促進作用、抗アレルギー、ストレス性潰瘍の抑制、記憶学習障害改善、血小板凝集抑制などの作用が有ります。その他、非糖体ペオニフロリゲノンには筋弛緩作用が認められています。

当帰(とうき)

婦人病の妙薬として、漢方でひんぱんに処方される重要生薬の一つです。漢方では古来、駆お血(血流停滞の改善)、強壮、鎮痛、鎮静薬として、貧血、腰痛、身体疼痛、生理痛生理不順、その他更年期障害に適用されています。

茎葉の乾燥品は、ひびやしもやけ、肌荒れなどに薬湯料として利用されています。鎮静作用はリグスチライド、ブチリデンフタライド、セダン酸ラクトン、サフロールなどの精油成分によります。また有効成分アセチレン系のファルカリンジオールに鎮痛作用があります。

駆お血効果を裏付ける成分として、血液凝固阻害作用を示すアデノシンが豊富に含まれています。また、アラビノガラクタンなどの多糖体に免疫活性作用や抗腫瘍作用が認められ、抗ガン剤としての期待も、もたれています。

川きゅう(せんきゅう)

川きゅうには補血、強壮、鎮痛、鎮静があります。漢方では貧血、冷え性、生理痛生理不順など婦人科の各種疾患に利用されています。

有効成分のリグスチライドなどのフタライド類に筋弛緩作用や血小板凝集阻害作用が有ります。またクニジリットには、免疫活性作用が認められています。

古い医学書には性病による各種皮膚疾患、化膿性のできもの、疥癬(かいせん)などを治すと記載されています。

地黄(じおう)

地黄は漢方治療で、糖尿病に用いられる処方の一つ八味地黄丸(はちみじおうがん)の主構成生薬です。地黄にはその調製法により鮮地黄(せんじおう)、乾地黄(かんじおう)、熟地黄(じゅくじおう)があります。

乾地黄には熱を冷ます作用と血糖降下作用がありますが、虚弱体質の方には不向きです。乾地黄の血糖降下作用はイリドイド配糖体のレーマンノサイド類によるものです、その他、乾地黄エキスには血圧を下げる作用が認められています。

鮮地黄には止血や通経作用があり、熟地黄エキスには血液増加作用や強壮効果があります。

蒼朮(そうじゅつ)

朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。

日本では調製法の違いによって白朮(びやくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。

両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。

桃仁(とうにん)

桃仁は漢方処方で、消炎性駆お血(くおけつ:血の改善)薬、通経薬、緩下(下剤)薬に配合されますが、単独では、生理痛生理不順、更年期障害などに用いられます。花蕾に緩下、利尿効果があるといわれています。

民間的には、種子には浄血、鎮咳、消炎作用があることが知られていますが、鎮咳効果は青酸配糖体のアミグダリンによるものです。その他、葉は薬湯料として、肌荒れやあせもによいとされています。

茯苓(ぶくりょう)

茯苓には、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。漢方処方では利尿剤、利水剤、心悸亢進、胃内停水、浮腫、筋肉の痙攣などに茯苓を配合しています。

秩苓とは漢名で、植物名をマツホドと呼び、松の根に寄生するサルノコシカケ科の菌核です。秩苓は菌核に多糖類のβパヒマンを、それにテルペノイドやエルゴステロールなどの成分を含んでいます。

最近の報告では多糖類のパヒマンから誘導されたパヒマランに、細胞性免疫賦活作用が認められています。サルノコシカケ科に共通の抗腫瘍作用とともに、今後の研究が期待されています。

茯苓は民間薬としては使われず、まれに利尿を目的に煎液を飲む程度です。漢方でも配合薬としては汎用されますが、単独では用いません。

牛膝(ごしつ)

神経痛、リウマチ、腰痛、脚気、その他月経不順などの婦人病に効果があります。有効成分としてはサポニンの他、イノコステロンなどの昆虫変態ホルモンが有ります。

牛膝は下腹部の薬として用いられていますが、中でも通経作用が顕著で、閉経した女性の頭痛や充血感を取り除く効果があるようです。

受胎動物を用いた実験で、牛膝の抽出エキスに子宮収縮作用が確認されていますが、先のイノコステロンが関与している可能性もあります。したがって、妊娠している人は服用を避けるべきです。実際、昔は堕胎の目的にも、使われたといわれています。

威霊仙(いれいせん)

威霊仙には鎮痛、利尿、整腸の作用があります。腰痛、神経痛、変形性膝関節症、リウマチ、痛風、肩や上腕の痛みなどの症状に適応した、漢方に処方されています。

成分はトリテルペノイド、サポニン、フェノール類、糖が主体です。

民間療法でも神経痛、リウマチなどに用いられています。

防已(ぼうい)

防已には鎮痛や抗炎症、抗アレルギー作用があります。漢方では利尿、鎮痛薬として関節浮腫、腹水、神経痛、関節リュウマチなどに処方されます。

アルカロイド成分シノメニンに抗炎症作用、抗アレルギー(ヒスタミンの遊離阻害)、抗体産生抑制、鎮痛作用の他、血圧降下作用が認められています。

羌活(きょうかつ)

羌活には、解熱、発汗、鎮痛、鎮痙作用、新陳代謝活性などがあります。漢方薬として頭痛、関節痛、リウマチ、身体疼痛、身体不随、新陳代謝活性薬などを目的に使用します。

薬効成分として、ノトプテロールやイソインペラトリン、ベルガプテンなどを含んでいます。ノトプテロールには抗炎症、血管透過性亢進抑制作用(浮腫、胸水、腹水の防止作用)などがあります。

使用上の注意は、用量が多すぎると嘔吐を生じやすいことです。

防風(ぼうふう)

防風には、発汗、解熱、鎮痛、鎮痙作用があります。 漢方薬で、皮膚疾患薬、消炎俳膿薬、鎮痛薬とみなされる処方に配合され、発汗、解熱、鎮痙などを目標に、感冒による関節痛や頭痛などに使用します。

有効成分は、クマリンやクロモン誘導体、サポシニコバンA~Cなどです。

クマリンには抗ヒスタミン作用やカルシウム拮抗作用、血液凝集抑制作用、発がん抑制作用があり、防風エキスでは、ラットの実験で関節炎を抑制する作用が確認されています。

竜胆(りゅうたん)

竜胆は苦味健胃薬として、古くから知られていみ生薬の中でも最も苦いものの一つです。漢方処方では健胃や消炎を目標に配合されています。

苦味成分であるゲンチオピクロシドなどのセコイリドイド配糖体が胃粘膜を刺激して、胃液の分泌を促進するとともに、胃腸の嬬動を促して、消化を活性化させます。その他、膵液(すいえき)や胆汁の分泌も促進させます。

陳皮(ちんぴ)

陳皮はミカンの皮を、天日乾燥させた物です。リモネン、テルピネオールといった芳香性のある精油成分を豊富に含んでいるため、胃液分泌促進作用、胃運動亢進作用や抗炎症、抗アレルギー作用があります。漢方では、芳香性健胃薬や駆風(腸管にたまったガスを排出)、食欲増進、吐き気止めなどを目標に処方されます。

また、精油成分には一般に発汗作用があり、初期の風邪などに効果があります。入浴剤として利用すると血行をよくし、肌を滑らかにします。

白し(びゃくし)

白しには、鎮静、鎮痛、排膿、通経、止血、抗菌作用などがあります。漢方では、解熱鎮痛、解毒、俳膿などを目標に処方されます。

主成分は、フロクマリン類のインペラトリンやフェロプテリン、ビャクアンゲリシンなどがあります。

白しエキスには、血圧上昇や中枢興奮作用などがあり、フロクマリン類には脂肪分解促進作用や脂肪生成阻害作用、発がん抑制作用などがあります。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。

生姜(しょうきょう)

生姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。


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